技術職・専門職として公的機関で働いている人が民間への転職を考えるとき、 判断材料になるのは「自分の今の年収が民間のどのあたりにあるか」です。

この記事では、公的機関の技術職・専門職の年収を 上場企業3,778社の分布に重ねて位置を確認し、 そのうえでどの業種なら年収が上がるのかを業種別の実データで示します。

数値は各法人の「役職員の報酬・給与等について」、総務省「地方公務員給与実態調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の公表値です。 換算方法はデータの出典と算出方法に記載しています。

出発点:技術職・専門職の現在地は職種で大きく違う

職種・機関 平均年収 上場企業3,778社の中での位置 この額以上の企業数
国立大学法人教員(教授) 1,083万円 下位から95.7% 164社
産業技術総合研究所(AIST) 935万円 下位から90.6% 357社
JAXA(宇宙航空研究開発機構) 920万円 下位から89.8% 387社
国立大学法人教員(准教授) 891万円 下位から87.8% 460社
地方公務員(研究職) 706万円 下位から61.6% 1,450社
地方公務員(看護・保健職) 626万円 下位から41.3% 2,218社
薬剤師(勤務薬剤師) 599万円 下位から34.1% 2,489社
診療放射線技師 550万円 下位から22.3% 2,934社
臨床検査技師 504万円 下位から12.1% 3,320社
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士 444万円 下位から4.7% 3,599社
栄養士(管理栄養士を含む) 394万円 下位から1.3% 3,728社

「技術職・専門職」とひとまとめにできないことが、この表からはっきりします。

研究・工学系(国立大学の教授1,083万円、産総研935万円、自治体の研究職706万円)は 上場企業の中央値(661万円)を上回る位置にあります。 一方、医療技術職は分布のかなり下に位置します。 理学療法士・作業療法士などの444万円以上を出している上場企業は3,599社、 つまり上場企業の95.3%がこれを上回ります。

この差は資格の難易度や社会的な必要性を表すものではなく、 適用される給料表と、その職種の労働市場の需給を反映した結果です。

年収が上がりやすい業種は6つに絞れる

上場企業3,778社を業種別に分け、 自治体の研究職の平均(706万円)以上を出している会社の割合が高い順に並べると次のようになります。

業種 706万円以上 業種の社数 業種内の割合 業種の平均
証券・投資 28社 32社 88% 962万円
電力・ガス 33社 41社 80% 848万円
製薬・医療 57社 81社 70% 855万円
建設・不動産 166社 281社 59% 794万円
銀行・金融 69社 125社 55% 782万円
電機・電子 118社 228社 52% 749万円
素材・化学 134社 291社 46% 704万円
物流・運輸 51社 113社 45% 723万円
商社・卸売 126社 304社 41% 716万円
機械・設備 87社 212社 41% 697万円
精密機器 18社 45社 40% 705万円
食品・飲料 50社 131社 38% 681万円
自動車・輸送機 30社 79社 38% 694万円
鉄鋼・金属 59社 157社 38% 677万円
IT・通信 204社 611社 33% 684万円
製造業その他 32社 114社 28% 618万円
サービス 114社 543社 21% 621万円
小売・流通 48社 311社 15% 569万円
アパレル・繊維 5社 45社 11% 602万円

技術系の経歴が接続しやすいのは、 電力・ガス、製薬・医療、建設・不動産、電機・電子、素材・化学、機械・設備です。 いずれも上の表の上位に来ます。

一方、IT・通信は611社と選択肢が最も多いものの、 706万円以上は33%にとどまります。 「技術職ならITに行けば上がる」という前提は、 少なくとも会社の平均年収という指標では裏づけられません。

医療技術職の場合、業種を変えないと動かない

診療放射線技師550万円、臨床検査技師504万円という水準は、 上場企業の下位22.3%・下位12.1%にあたります。

同じ資格を活かせる転職先として自然に浮かぶのは医療機関ですが、 そこは公的機関と同じ給与水準の市場です。 分布上の位置を動かすには、業種そのものを変える必要があります。

データ上、資格と経験が接続しうる高年収帯の業種は次の2つです。

  • 製薬・医療(81社・平均855万円・70%が706万円以上) 臨床開発、学術、品質管理などの職種が該当します
  • 精密機器(45社・平均705万円) 医療機器の開発・薬事・アプリケーションスペシャリストなどが該当します

製薬・医療の平均855万円は、診療放射線技師の550万円を大きく上回ります。 ただし社数は81社と限られており、募集職種も専門性の要求が高い領域です。

「割合が高い」と「社数が多い」は別の話

転職先を絞るとき、この2つは混同されがちです。

  • 割合が高い業種:証券・投資88%、電力・ガス80%、製薬・医療70%
  • 社数が多い業種:IT・通信611社、サービス543社、小売・流通311社、素材・化学291社

証券・投資は88%と圧倒的ですが、そもそも32社しかありません。 一方でIT・通信は611社あり、33%でも204社が706万円以上を出しています。 社数で見れば、IT・通信のほうが電力・ガス(33社)より選択肢は多いことになります。

割合が高い業種は「入れれば高い」、社数が多い業種は「入り口が広い」。 どちらを優先するかは、転職の緊急度と自分の専門領域によって変わります。

規模も効く

業種と並んで効くのが企業規模です。 従業員数別の平均年収は次のとおりです。

従業員数 社数 平均年収
10,000人以上 47社 827万円
3,000〜9,999人 198社 834万円
1,000〜2,999人 515社 751万円
300〜999人 1,063社 669万円
100〜299人 1,006社 657万円
100人未満 948社 694万円

1万人以上の企業(827万円)と300〜999人の企業(669万円)では大きな差があります。 詳しくは従業員数と年収の関係で検証しています。

業種と規模の両方を選べば、年収が上がる確率は大きく変わります。 逆に、どちらも選ばずに転職した場合、 現在地が中央値より上にある職種(研究・工学系)では下がる可能性のほうが高くなります。

数字を読むときの注意

  • 職種・機関側の数値は公表値です。 年収は各調査の月給と賞与からの換算で、国立大学の教授・准教授は職位別の表を公表している法人の人数で重みづけした平均です
  • 企業側の数値は在籍者全体の平均であり、中途入社時の提示額ではありません。 業種の平均が855万円でも、入社初年度がその額になるわけではありません
  • 職種別の年収ではありません。 有価証券報告書に記載されるのは会社全体の平均であり、 技術職だけを取り出した数値は公表されていません
  • 上場企業に限った集計です。 未上場企業を含めた民間全体の水準はこれより低くなります
  • 退職手当・共済年金は含みません。 生涯収入で比較する場合は別途考慮が必要です
  • 業種分類は当サイトが34区分に正規化したものです。基準は出典と算出方法に記載しています

関連する数値を見る