「医療職は資格があるから安定して稼げる」とまとめて語られることがあります。 しかし同じ医療の現場で働く職種のあいだに、3倍を超える開きがあります。
この記事では、医療系の職種の平均年収を 上場企業3,778社の分布の中に置いて、 それぞれ何社がその額以上を出しているのかを数えます。
数値はすべて公表値からの年収換算です。
- 「地方公務員(…)」の行:総務省「地方公務員給与実態調査」第5表(自治体病院・保健所などの職員)
- それ以外の行:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(職種)第1表(企業規模10人以上に雇われて働く人・男女計)
換算方法はデータの出典と算出方法に記載しています。
結論:同じ医療職でも、上位数%から下位数%まで散らばる
| 職種 | 平均年収 | 上場企業3,778社の中での位置 | この額以上の企業数 |
|---|---|---|---|
| 地方公務員(医師・歯科医師職) | 1,621万円 | 下位から99.4% | 21社 |
| 医師(勤務医・全国平均) | 1,338万円 | 下位から98.8% | 46社 |
| 歯科医師(勤務) | 1,136万円 | 下位から96.6% | 127社 |
| 地方公務員(薬剤師・医療技術職) | 638万円 | 下位から43.9% | 2,120社 |
| 地方公務員(看護・保健職) | 626万円 | 下位から41.3% | 2,218社 |
| 薬剤師(勤務薬剤師) | 599万円 | 下位から34.1% | 2,489社 |
| 診療放射線技師 | 550万円 | 下位から22.3% | 2,934社 |
| 看護師(全国平均) | 520万円 | 下位から15.2% | 3,203社 |
| 臨床検査技師 | 504万円 | 下位から12.1% | 3,320社 |
| 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士 | 444万円 | 下位から4.7% | 3,599社 |
| 栄養士(管理栄養士を含む) | 394万円 | 下位から1.3% | 3,728社 |
勤務医の1,338万円は上場企業の上位1.2%で、 この額以上を出している会社は46社しかありません。
一方、栄養士の394万円以上を出している上場企業は3,728社、 全体の98.7%です。上場企業のほとんどが栄養士の平均を上回ります。
資格の難易度と年収は対応していない
注目すべきは、国家資格の取得難度と年収が比例していないことです。
理学療法士・作業療法士、臨床検査技師、管理栄養士は、 いずれも大学や専門学校で数年学び、国家試験に合格して初めて名乗れる職種です。 それでも上場企業の分布では下位の側に位置します。
- 臨床検査技師 504万円 … 上場企業の87.9%がこれ以上
- 理学療法士・作業療法士など 444万円 … 同 95.3%
- 栄養士(管理栄養士を含む) 394万円 … 同 98.7%
これは資格の価値が低いという話ではありません。 診療報酬という公定価格のもとで働く職種は、賃金の上限がその枠に規定される という構造の問題です。個々の努力や能力とは別の次元で決まっています。
なお、理学療法士・作業療法士の平均年齢は35.5歳、 栄養士は37.5歳で、医師(44.1歳)より若い層が中心です。 平均年収の差には、この年齢構成の違いも含まれています。
看護師は勤め先で位置が変わる
看護師の全国平均520万円は、上場企業の下位15.2%にあたります。
一方、自治体病院・保健所などに勤める看護・保健職は626万円で、 看護師全体の平均を上回ります。 公務員の給与体系(給料表と期末・勤勉手当)と地域手当が効いているためです。 ただし地方公務員の側には保健師・助産師も含まれ、年齢構成も同じではない点に注意が必要です。
医師・歯科医師と、それ以外
上の表では、医師・歯科医師と、それ以外の医療職のあいだに大きな段差があります。 医師・歯科医師以外で最も高い地方公務員の薬剤師・医療技術職でも638万円で、 勤務医の1,338万円とは大きく離れています。 医療現場は多職種が連携して成り立ちますが、 年収の分布で見ると医師・歯科医師とそれ以外は別の集団です。
民間の分布と比べたときの特徴
上場企業3,778社の年収分布は次のように開いています。
| 位置 | 平均年収 |
|---|---|
| 下位10% | 493万円 |
| 下位25% | 559万円 |
| 中央値 | 661万円 |
| 上位25% | 777万円 |
| 上位10% | 924万円 |
| 上位5% | 1,054万円 |
| 上位1% | 1,419万円 |
医療職も、勤務医から栄養士まで3倍を超えて開いており、 民間と同じくらい散らばっていることになります。 「資格職は安定していて差が小さい」という印象は、 少なくとも年収の分布では裏づけられません。
数字を読むときの注意
- 年収は月給と賞与の公表値からの換算です。 賃金構造基本統計調査は「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与」、地方公務員は「給与月額×12+期末・勤勉手当」で出しています
- 賃金構造基本統計調査は雇われて働く人の統計です。開業医など経営者は含みません
- 在籍者全体の平均です。新卒はこれよりかなり低く、管理職・経験年数の長い層は高くなります
- 勤務先による差が大きい職種です。 病院・診療所・企業・公的機関で給与体系が異なります
- 企業側の数値は有価証券報告書の単体の平均年間給与です
- 上場企業に限った比較です。 未上場企業を含めた民間全体の水準はこれより低くなります