「公務員は民間より恵まれている」という話は繰り返し語られますが、 その根拠として使われるのはたいてい平均値どうしの比較です。
平均どうしの比較には限界があります。 民間企業の年収は上下に大きく散らばっているので、 1つの平均値に押しつぶしてしまうと、実際の位置関係が見えなくなります。
この記事では、市区町村職員の平均年収を上場企業3,778社の分布の中に置いてみるという方法をとります。 当サイトは有価証券報告書から取得した3,778社の平均年収を1社ずつ持っているので、 「何位相当なのか」を直接数えることができます。
結論:上場企業のちょうど真ん中よりやや下
| 公的セクターの区分 | 平均年収 | 上場企業3,778社の中での位置 | これを上回る企業数 |
|---|---|---|---|
| 市区町村 | 616万円 | 下位から38.5% | 2,323社 |
| 都道府県庁 | 673万円 | 下位から53.1% | 1,771社 |
| 国家公務員(行政職の平均・人事院) | 712万円 | 下位から63.0% | 1,398社 |
| 政令指定都市(20市平均) | 708万円 | 下位から62.0% | 1,435社 |
市区町村職員の616万円は、上場企業3,778社のうち2,323社がこれを上回る位置にあります。 言い換えると、上場企業の61.5%は市役所職員の平均より高い、ということです。
上場企業全体の中央値は661万円ですから、 市区町村職員は上場企業の中央値をやや下回る水準にあります。
「恵まれている」と言えるのか
この数字だけを見ると、「上場企業の平均より下なのだから恵まれてはいない」という結論になりそうです。 しかし、それも早計です。理由は3つあります。
第一に、比較対象が上場企業に限られていること。 日本の企業のうち上場しているのは約4,000社で、企業数全体の0.1%に満たない、明確に上位の集団です。 非上場の中小企業まで含めた全体と比べれば、市役所職員の616万円はもう少し上の方に来ます。 つまりこの表は「公務員 vs 民間全体」ではなく「公務員 vs 民間の上位0.1%」の比較です。
第二に、分布の形が違うこと。 上場企業3,778社の年収分布は次のように散らばっています。
| 分位 | 上場企業の平均年収 |
|---|---|
| 下位10% | 493万円 |
| 下位25% | 559万円 |
| 中央値 | 661万円 |
| 上位25% | 777万円 |
| 上位10% | 924万円 |
| 上位5% | 1,054万円 |
| 上位1% | 1,419万円 |
下位10%の493万円から上位1%の1,419万円まで、約2.9倍の開きがあります。
一方、市区町村1,721自治体は最高770万円・最低484万円で1.59倍です。 標準偏差で見ても市区町村は33.5と小さく、給料表にもとづく制度のため極端な値が出ません。
民間は上にも下にも大きく開いていて、公務員は狭い範囲に収まっている。 これが両者のいちばん本質的な違いです。
第三に、この比較には退職手当と年金が含まれていないこと。 生涯収入で見るなら、退職手当・共済年金・雇用の安定性を含めて考える必要があります。 当サイトのデータはこれらを含まないため、この記事では判断していません。
「恵まれているか」は、どの民間と比べるかで変わる
上の3点を踏まえると、答えは一つに定まりません。
- 上場企業と比べるなら:市役所職員は中央値をやや下回る。上位企業には遠く及ばない
- 民間企業全体と比べるなら:明確に上の方に位置する
- リスクの少なさで比べるなら:年収の下振れがほぼ発生しない点で、民間と性質が異なる
「公務員は恵まれている/恵まれていない」という二択の問いの立て方自体が、 分布を見ずに平均だけを比べることから生まれています。
個別の企業と比べてみる
平均どうしではなく、具体的な企業と比べたほうが実感がわきます。
- 市区町村職員の平均616万円を上回る上場企業は2,323社
- 政令指定都市トップ(771万円)を上回る上場企業は981社(全体の26.0%)
- 市区町村で最も高い小平市役所(770万円)を上回る上場企業は989社(全体の26.2%)
つまり、全国で最も年収の高い自治体を上回る上場企業も、全体の26.2%あるという計算になります。
数字を読むときの注意
- 公務員側は公表値からの換算です。 平均給与月額 × 12ヶ月に、同じ調査で公表されている期末・勤勉手当の年額(実額)を加えて換算しています
- 上場企業側は有価証券報告書の実測値ですが、原則として単体決算・提出会社ベースです。 持株会社は少人数の本社機能だけが対象になり、実態より高く出ることがあります
- どちらも在籍者全体の平均です。年齢構成が異なれば単純比較できません。 公務員は年齢構成が比較的高く、若い企業と比べると公務員側が有利に出ます
- 退職手当・企業年金・福利厚生は含みません