「公務員は民間より恵まれている」という話は繰り返し語られますが、 その根拠として使われるのはたいてい平均値どうしの比較です。

平均どうしの比較には限界があります。 民間企業の年収は上下に大きく散らばっているので、 1つの平均値に押しつぶしてしまうと、実際の位置関係が見えなくなります。

この記事では、市区町村職員の平均年収を上場企業3,782社の分布の中に置いてみるという方法をとります。 当サイトは有価証券報告書から取得した3,782社の平均年収を1社ずつ持っているので、 「何位相当なのか」を直接数えることができます。

結論:上場企業のちょうど真ん中よりやや下

公的セクターの区分 平均年収 上場企業3,782社の中での位置 これを上回る企業数
市区町村(228自治体平均) 642万円 下位から45.0% 2,079社
都道府県庁(47庁平均) 657万円 下位から48.6% 1,944社
国家公務員(18機関平均) 682万円 下位から55.4% 1,685社
政令指定都市(20市平均) 692万円 下位から58.0% 1,589社

市区町村職員の642万円は、上場企業3,782社のうち2,079社がこれを上回る位置にあります。 言い換えると、上場企業の55%は市役所職員の平均より高い、ということです。

上場企業全体の平均は692万円、中央値は662万円ですから、 市区町村職員は上場企業の中央値をやや下回る水準にあります。

「恵まれている」と言えるのか

この数字だけを見ると、「上場企業の平均より下なのだから恵まれてはいない」という結論になりそうです。 しかし、それも早計です。理由は3つあります。

第一に、比較対象が上場企業に限られていること。 日本の企業のうち上場しているのは約4,000社で、企業数全体の0.1%に満たない、明確に上位の集団です。 非上場の中小企業まで含めた全体と比べれば、市役所職員の642万円はかなり上の方に来ます。 つまりこの表は「公務員 vs 民間全体」ではなく「公務員 vs 民間の上位0.1%」の比較です。

第二に、分布の形が違うこと。 上場企業3,782社の年収分布は次のように散らばっています。

分位 上場企業の平均年収
下位10% 492万円
下位25% 558万円
中央値 662万円
上位25% 775万円
上位10% 923万円
上位5% 1,044万円
上位1% 1,419万円

下位10%の492万円から上位1%の1,419万円まで、約2.9倍の開きがあります。

一方、市区町村228自治体は最高782万円・最低572万円で1.37倍に収まっています。 標準偏差で見ても市区町村は33.5と小さく、給料表にもとづく制度のため極端な値が出ません。

民間は上にも下にも大きく開いていて、公務員は狭い範囲に収まっている。 これが両者のいちばん本質的な違いです。

第三に、この比較には退職手当と年金が含まれていないこと。 生涯収入で見るなら、退職手当・共済年金・雇用の安定性を含めて考える必要があります。 当サイトのデータはこれらを含まないため、この記事では判断していません。

「恵まれているか」は、どの民間と比べるかで変わる

上の3点を踏まえると、答えは一つに定まりません。

  • 上場企業と比べるなら:市役所職員は中央値をやや下回る。上位企業には遠く及ばない
  • 民間企業全体と比べるなら:明確に上の方に位置する
  • リスクの少なさで比べるなら:年収の下振れがほぼ発生しない点で、民間と性質が異なる

「公務員は恵まれている/恵まれていない」という二択の問いの立て方自体が、 分布を見ずに平均だけを比べることから生まれています。

個別の企業と比べてみる

平均どうしではなく、具体的な企業と比べたほうが実感がわきます。

  • 市区町村職員の平均642万円を上回る上場企業は2,079社
  • 政令指定都市トップの川崎市748万円を上回る上場企業は1,146社(全体の30%)
  • 最も高い港区782万円を上回る上場企業は905社(全体の24%)

つまり、東京都心の区役所職員の年収を上回る上場企業は4社に1社という計算になります。

数字を読むときの注意

  • 公務員側は推計値です。 平均給与月額 ×(12 + 4.45ヶ月)で年収換算しています
  • 上場企業側は有価証券報告書の実測値ですが、原則として単体決算・提出会社ベースです。 持株会社は少人数の本社機能だけが対象になり、実態より高く出ることがあります
  • どちらも在籍者全体の平均です。年齢構成が異なれば単純比較できません。 公務員は年齢構成が比較的高く、若い企業と比べると公務員側が有利に出ます
  • 退職手当・企業年金・福利厚生は含みません

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